SASの病態
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に10秒以上の無呼吸もしくは低呼吸が起こる状態のことを言います。これらの呼吸イベントは、睡眠時間1時間あたりの呼吸イベントを示すAHI(無呼吸低呼吸指数)を使って表します。AHIが5以上の場合に睡眠呼吸障害があると診断されます。
SASは、閉塞性、中枢性、およびこれらが混在する混合性の3種類に分類されます。このうち最も一般的にみられるのが、閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea:OSA)です。日本国内だけでも、現在治療を受けている患者数は、約80万人に上るとされています。※1 OSAは、睡眠中に咽頭が虚脱して気道が閉塞することで無呼吸が発生する病態です。無呼吸が起こると、脳が体内の酸素濃度の低下を感知し、呼吸を促します。この際、本人は気づかない程度の「微小覚醒」が起こります。眠っている間に、無呼吸と覚醒を繰り返すため、深い睡眠が妨げられ、睡眠の質が著しく低下します。


OSAのリスク
OSAは、高血圧、糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患、うつ病など、多くの合併症との関連が示唆されています。また、重症OSAであるほど、合併症のリスクは増加します。
- 高血圧:高血圧のある男性の47%、及び女性の26%に重症OSAが認められるという報告があります。※2
- 糖尿病:Ⅱ型糖尿病かつOSAの合併がある場合、心血管疾患及び死亡リスクが高くなるという報告があります。※3
- 心不全:心不全の患者の76%に睡眠障害(SDB)があり、そのうち36%にOSA合併が認められています。※4
- 脳血管障害:急性期における脳卒中あるいは一過性脳虚血発作(TIA)のSDBの有病率は、66.8%という報告があります。その内、50.3%が中等症以上(AHI≧15)、31.6%に重症(AHI≧30)のSDBが認められています。
OSAの症状
一般的なOSAの症状には、いびき、ベッドパートナーからの無呼吸の指摘、夜間の息切れ、日中の眠気が含まれます。
その他にもOSAが疑われる症状には、以下の症状が含まれます。
- 歯ぎしり:軽症から中等症のOSAにおいて、夜間のはぎしりとOSAの関係性が示唆されています。※6、7
- 頭痛:夜間の血中酸素飽和度が低下する重症のOSA患者において、起床時の頭痛を訴える可能性が高い傾向にあります。※8
- 不眠症:OSAと不眠症の合併率は高い傾向にあり、また、OSAと不眠症の併存は心血管疾患の危険因子となる可能性があります。※9
- 夜間頻尿:重症OSA患者において、夜間頻尿との関連の強さが示唆されています。※10
- 胃食道逆流症:OSAによる胸腔内圧の上昇によって、胃酸逆流が起こり、胃食道逆流症(GERD)になる可能性があります。※11
OSAの治療
OSAの治療法は多岐にわたり、患者様の症状やライフスタイルに合せて最適な方法を選択します。日中の眠気が強い方や、中等症から重症の患者様には、一般的にCPAP療法が推奨されます。
CPAP療法
CPAP(持続陽圧呼吸療法)は、CPAP装置本体、呼吸用チューブ、マスクを使用し、睡眠中に気道へ空気を送り、気道を陽圧に保ちます。これにより、上気道の閉塞による無呼吸を防止します。
口腔内装置
睡眠中にマウスピースのような装置を装着し、下顎を前方に固定することで、気道の狭窄を防ぎます。比較的軽症の患者様に適しています。
舌下神経電気刺激療法
体内に埋め込んだ装置から、微弱な電流を送り舌を収縮させて、睡眠中の無呼吸を防止します。この治療法を行うにあたっては、中等症以上であることやCPAPの継続が困難であることなどの適応条件があります。
外科的治療
重度の扁桃肥大や、解剖学的な要因によりCPAPや口腔内装置が使えない場合には手術を行うことがあります。
体位変換療法
仰向けで寝ると無呼吸が起こりやすい方は、横向きで寝ると症状が改善される場合があります。体位変換療法は比較的軽症の患者様に適しています。
生活習慣の是正
減量:肥満が原因の場合、減量によって症状が軽減する可能性があります。
禁煙・禁酒:喫煙や飲酒は上気道の炎症を引き起こすため、OSAを悪化させる可能性があります。
1 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450048&tstat=000001029602&cycle=7&tclass1=000001229285&tclass2=000001229286&tclass3=000001229287&stat_infid=000040282516&result_page=1&tclass4val=0&metadata=1&data=1
2 https://publications.ersnet.org/content/erj/27/3/564
3 https://diabetesjournals.org/care/article/43/8/1868/35558/Obstructive-Sleep-Apnea-a-Risk-Factor-for
4 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1016/j.ejheart.2006.08.003
5 https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.120.029847
6 https://www.mdpi.com/2077-0383/8/10/1653
7 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003996920300637?via%3Dihub
8 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1600-0404.2005.00372.x9 https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.6988
10 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2869.2004.00400.x
11 https://link.springer.com/article/10.1007/s11325-018-1691-x